山上村農協小水力発電所

鳥取県
日野川水系の水力発電所
農協系小水力
最終更新:2024-09-28

所長 日南町尾郷にはかつて農協系の水力発電所がありました。
昭和26年に建設された山上村農協小水力発電所です。
今はありません。

1974~78年の航空写真では既に建屋が残っていませんので、それ以前、恐らく昭和30年台末ごろには既に廃止されていたのではないでしょうか。
昭和30年代と言えば高度経済成長と人件費の高騰によって小水力発電が割に合わなくなり始めた頃です。
根拠はそれだけしかありませんので、あまり掘り下げずにとっとと進めましょう。
建屋は無いといってもそこは水力施設。
土木構造物の遺構はバッチリ残っていますので今回はそれらの紹介がメインです。
特に水路橋は目を見張る美しさ!
それじゃ順番に見ていこうじゃないか、ぽんきちくん。

ぽんきちくん だからやですってば。

もくじ

日野川水系の水力発電所
黒坂発電所
日野川第一発電所
新川平発電所
俣野川発電所と俣野川ダム発電所
新幡郷発電所
日野川水系の小水力・・・発電所
小水力発電の歴史
畑発電所
根雨発電所
米沢発電所
溝口発電所
旭発電所
川平発電所と川平第二発電所
新石見小水力発電所
新日野上小水力発電所
若松川発電所
賀祥発電所
朝鍋ダム小水力発電設備
遺構
山上村農協小水力発電所 ⇦ いまここ
取水堰 ________(
水路橋跡 _______(
導水路跡 _______(
発電所跡地 ______(
緒元についての考察 __(
津地発電所
山上村農協小水力発電所

『続日南町史 地域編(2020.06)』を出典として使用させていただきました。

取水堰

尾郷の集落南端あたり、小原川に古い堰があります。
竣工から70年以上経過しているだけあって、もはや自然石のような滑らかさ。
近くまで降りてみましたが、取水口もしくは導水路らしきものは見当たりませんでしたので、道路の拡張に伴い潰してしまったのでしょう。

山上村農協小水力発電所の取水堰
2024-02-12
山上村農協小水力発電所の取水堰
2024-02-12
山上村農協小水力発電所の取水堰
2024-02-12

ちなみに、堰の左岸(道路)側が補修されていますね。
実はこれがとても異様な事だという話をこれからしようと思います。

冒頭で、1974~78年の航空写真では既に発電所が無かったと述べましたが、その頃この場所は幅員の狭い1車線でした。
という事は、伯耆伯南線の幅員が拡張され、法面が出来たのは発電所の廃止以降であることになります。
よくよく見てみると補修の跡は川岸の法尻と似たような質感ですので同時期。
また、そうでなくともコンクリートの肌理が細かく、堰の竣工よりは随分後に施工されたと考えるのが妥当。
つまり補修は発電所が廃止された後に行われた可能性が高いのです。
おわかりでしょうか?
朽ちるにまかせておけば只の遺構で済んでいたものを、なまじ補修なぞしてしまった事により無用の長物的超芸術、すなわちトマソンになってしまったのであ

ぽんきちくん どうでもいいです、そんな話。

水路橋跡

山上村農協小水力発電所の廃水路橋
2023-01-21

さてここが今回のクライマックスだぜ!
( ✧Д✧) カッ!!

私がこの土木構造物の存在を知ったのが2021年9月。
地元ですので当然それまでも見る機会はあったのでしょうが、記憶にありません。
…まぁ、あまりこういうのに興味が無かったんでしょうな。
で、気付いたら気付いたで気にはなりながらもその正体がわからない。
遺構へ直通の林道は全面通行止め。
ここで手詰まりとなります。
仮に地形図上で等高線を辿って前述の取水堰に気付けたとしても、水の終着点である肝心の事業所が既に無くなっている訳ですから同じく手詰まりになっていたことでしょう。

やむを得ず塩漬けにすること2年。
なんのことはない、町史に書いてありました。
いいかいみんな?
俺たちが疑問に思った事なんて、たいてい誰かが既に調べてるんだ。
郷土史だ、郷土史を読もう!

はぁ…それにしても美しい。
鳥取県西部に残る廃土木の中で間違いなく断トツの美しさでしょう。

山上村農協小水力発電所の廃水路橋
2023-01-21
山上村農協小水力発電所の廃水路橋
2023-01-21
山上村農協小水力発電所の廃水路橋
2023-01-21

導水路跡

水路橋が残っている方(右岸)の林道は全面通行止めであると先ほど述べました。
くっくっく…だがな、左ががら空きだぜ!

というわけで、山腹水路が残ってないか確認してみようと思います。
水路橋の高さを念頭に置きながらモルタル吹付の法面を眺めてみると、それらしい段差が見えるには見えます。
ただこうやって書いたものとして発表するからにはもう少し根拠が欲しい。


…登ろう。
危ないからみんなはダメだぜ?
注:おまえもな

結果、水路跡であることがわかりました。
他の用途で使われていたと考える理由も特にありませんので、

山上村農協小水力発電所の導水路跡である

と結論付ます。
あー怖かった。

山上村農協小水力発電所の導水路後
2024-04-07
山上村農協小水力発電所の導水路後
2024-04-07
山上村農協小水力発電所の導水路後
2024-04-07
おまけ.ナゾの構造物 ▼

ちなみに途中怪しい構造物がありましてですね。
私は当初これが水路橋前の余水吐きなんじゃないかと考えていたんですな。

今回斜面によじ登ったのも、実はこやつの正体を明らかにする意図が半分ぐらいあったのですが、残念ながらハズレ。
普通の谷止工でした。
時系列的には水路の後。
上の写真2枚目でわかるとおり、水路跡をぶった切って施工してあります。
形といい質感といい、怪しいと思ったんだけどなぁ。
それにしても怖かった。

山上村農協小水力発電所の廃水路
2024-04-07
山上村農協小水力発電所の廃水路
2024-04-07
山上村農協小水力発電所の廃水路
2024-04-07

発電所跡地

山上村農協小水力発電所の廃水路橋
2023-01-21

はい、発電所跡地にやって来ました。
建物および水圧鉄管は既にありません。
くっくっく…だがな。
何も無いわけじゃないぜ?

どこだかで書いたような気がしますが、取水口から放水口までが水力探索。
そう、放水路が残っているかもしれない。
道の下に通していた穴をわざわざ跡形もなく埋め戻すよりは再利用した方が手っ取り早そうですからな。
というわけでここだ!ドンッ。

山上村農協小水力発電所の放水路跡
2023-01-21
山上村農協小水力発電所の放水路跡
2023-01-21
山上村農協小水力発電所の放水路跡
2023-01-21

放水路の位置からして、発電所そのものは丁度ユンボの辺りにあったんじゃないですかね。
航空写真でもここら辺になんか見えますし。
更に山の中腹ぐらいまで登れば導水路の隧道跡も見つかるのでしょう。

緒元についての考察

最後にできる限りの考察をしてみたいと思います。
資料などありませんのであまり期待しないでいただきたい。
下敷きにできそうな条件としては、
・30m程度の有効落差を得ることができた
・取水量は0.3㎥/秒程度であった

これらを補足しながら説明します。

有効落差については、取水位および水路の高さがわかっているので地形図の等高線を数えれば求まります。
次に小原川からの取水量について。
山上村農協小水力発電所の取水堰から僅か1kmほど上流に、菅沢ダムの付帯施設である小原川集水地があります。
菅沢ダムができたのが昭和43年。
其々が活躍する時代は競合していませんので、小原川の流量を維持しながらという条件で同程度の取水ができていたと仮定します。
で、小原川集水地での最大取水量が0.275㎥/秒ですので、概ね0.3㎥/秒としました。
このことから、
最大出力は80kWぐらいであった
と推定することができます。
そこら辺の水車選定表を見ればだいたい当たりをつけることが出来ますからね。
今回は三井三池製作所太陽ガスのページを参考にさせていただきました。
水車、その他発電装置がどのようなものであったかについてはもはや知る由もありませんので、今回はこの辺りまでといたします。

それではさようなら。

ーおわりー

日野川第一発電所

鳥取県
日野川水系の水力発電所
県営
最終更新:2024-09-28

所長 日野川第一発電所は、治水が主な目的である菅沢ダムの付帯施設として昭和43年に完成、発電を開始しました。

完成から50年以上にわたり鳥取県の管轄で発電を行っていましたが、令和6年2月現在休業中。
M&C鳥取水力発電株式会社が運営を引継ぎ、2024年末ごろから運転を再開する予定です。
この、民間委託による運営方式(コンセッション方式のPFI)というやつについては後述します。

今回も以下のような導水経路
尾郷採水地釣谷川取水口菅沢ダム日野川第一発電所
に沿って解説する流れで行きたいと思いますので、最後までどうぞお付き合いください。

なお、参考資料として
県営発電施設PFI手法検討調査及び導入可能性調査業務(日本総研 H29.07)
施設概要書(鳥取県企業局 H30.11)
工事工程表(M&C鳥取水力発電株式会社)
続日南町史 地域編(R02.06)
などを使用させていただきました。

ぽんきちくん 菅沢ダムの公式がすごい充実してて面白いのよ。
いっそのことそっちを見た方が早(カット)

もくじ

日野川水系の水力発電所
黒坂発電所
日野川第一発電所 ⇦ いまここ
取水施設
 尾郷採水地 ________(
 釣谷川取水口 _______(
菅沢ダム __________(
日野川第一発電所 ______(
設備更新と今後の運営 ____(
新川平発電所
俣野川発電所と俣野川ダム発電所
新幡郷発電所
日野川水系の小水力・・・発電所
小水力発電の歴史
畑発電所
根雨発電所
米沢発電所
溝口発電所
旭発電所
川平発電所と川平第二発電所
新石見小水力発電所
新日野上小水力発電所
若松川発電所
賀祥発電所
朝鍋ダム小水力発電設備
遺構

尾郷採水地

尾郷採水地は日南町山上福万来尾郷にあり、小原川からの取水を行っています。
菅沢ダムと同じく昭和43年に完成しました。

いまここ。

日野川第一発電所 尾郷採水地

最初に、わりと曖昧になりがちな名称について、エビデンスを明確にしておきましょうかね。
尾郷採水地というのは町史に記載されている名称です。
どこからどこまでといった区切りはありませんが、ここ尾郷の地で採水を行う為の諸設備群を含めた一帯を指している…んだろう。
で、その諸設備群というやつの中に小原川取水口があります。
これは鳥取県企業局(公式)が作成する資料で随所に見られ、以下も同様です。
取水を行うための堰堤に名前は無く、堰堤によって堰き止められてできるダム湖が第一沈砂池。
取水口から小原川導水路に沿って100㍍ほど下ったところにあるのが第二沈砂池。
他の設備はキリがないので端折ります。

さて雑談。
ここ尾郷採水地で一番のチャームポイントはズバリ漏斗状の取水口です。
これは、異様に土砂の多い小原川の特性を踏まえて、導水路が閉塞することを防ぐのが目的なのでしょう。
実際いつ見ても満砂状態ですし。
注:ときどき浚渫はするらしい(町史)

日野川第一発電所 尾郷採水地
2021-09-10
日野川第一発電所 尾郷採水地
2023-01-21
日野川第一発電所 尾郷採水地
2023-01-21

また日野川第一発電所は、基本的に印賀川からの取水でやりくりしています。
しかしここ小原川は名前からもわかるとおり別の支流です。
本来そのまま日野川へ流下するはずであった水を、わざわざ別の支流へ転嫁することで発電と治水の効果を高めているのです。
特に治水の効果に注目。
何故なら、二つの支流間、すなわち霞や生山など一部の日野上地区ではこれまで、大水が出て危なかったことが何度もあるのですが、多くないとはいえ2.275㎥/秒の水を菅沢ダムという巨大な水槽へ逃がす仕組みがあるおかげで、もしかしたら何かが助かっていたかもしれないからです。
当然発電に回せる水も多くなります。
生態系や風水などへの影響はいったん置いておきつつ…

ありがとう旧建設省。

釣谷川取水口

それでは次。
日野川水系、数ある取水施設の中でも神秘のベール度No.1!
釣谷川取水口いってみましょう。

いまここ。

日野川第一発電所 釣谷川取水口

ここはその名のとおり釣谷川からの取水を行っており、小原川からの導水と合流して直後に菅沢貯水池へと流れ込みます。
取水量は0.159㎥/秒です。

場所は菅沢ダム近く。
ある場所・・・・から山の中へガシガシ分け入ると見つかります。
迷うという程ではありませんが、忍びが通る獣道といった感じであまりお勧めするような道程でもありません。
なので、敢えて細かくは書きません。

日野川第一発電所 釣谷川取水口
2021-10-03
日野川第一発電所 釣谷川取水口
2021-10-03
日野川第一発電所 釣谷川取水口
2021-10-03
日野川第一発電所 釣谷川取水口
2021-10-03

それにしてもたったこれだけの取水を行うために、いったどれほどの苦労をしているんでしょうね…
実際私が訪れた時も、水門の周りに足跡が残っていましたので、ほったらかしでは無いらしいことが分かります。

原子炉さえ稼働すれば
円高になって燃料さえ安く輸入できれば


などと短絡的な発想に至る前に、まず目の前にあるエネルギーを大事に使おう。
そんな世論がなかなか主流にならないなぁなどと考えつつ、この小さな取水施設のこと、そして帰りの険しい道のりについて更に考えるのでした。

菅沢ダム

菅沢ダム行きます。
そもそも発電所自体、多目的ダムである菅沢ダムの付帯施設ですので、主役はあくまでもここ。

日野川第一発電所 菅沢ダム

古くから地形が変わるほどの水害を流域にもたらしてきた日野川ですが、昭和9年の室戸台風をきっかけに抜本的な改修が始まりました。
特に昭和35年の直轄河川改修計画が決め手となりダム建設がスタート。
やっぱりありがとう旧建設省!

日野川水系における歴史的な水害をもたらした洪水としては、昭和9年9月(室戸台風)洪水が挙げられ、この洪水を契機に災害復旧工事や治水安全度の向上を目的とした抜本的な改修、更にはほ場整備事業と連携した改修などが行われてきました。
これまでの治水対策としては、河道改修で洪水の流下能力を向上させる方法の他に、ダムによる洪水調節と組み合わせる方法が取られています。
日野川流域では、日野川本川の中下流区間の治水対策として菅沢ダム(建設省)が昭和43年に、法勝寺川の治水対策として…(中略)

日野川水系では、昭和35 年に直轄河川改修計画が策定され、計画規模1/60 で基本高水流量を4,300m³/sとし、このうち300m³/s を上流の菅沢ダムにおいて調節し、計画高水流量を4,000m³/sとする計画が定められました。
この計画に基づき、昭和36 年より直轄河川改修事業に着手し、無堤地区や計画高水位以下の未改修堤地区において築堤が実施されました。
菅沢ダムは、支川の印賀川において昭和37 年に着工し、昭和43 年に完成しました。

また、日南湖西岸の展望台にダム之碑というのが建っています。
ちょっと読んでみましょう。

菅沢ダム之碑
昭和三十五年於此處ダム建設起儀乎時県知事石破二朗氏来以精誠請協力地元亦快応之熟機而関係者以専心当衝見事完成雖此地深没流水久遠潤県内茲為供墳墓地人々名刻石伝後世偉可云也
昭和四十三年三月/日南町長木下太郎記

石破知事の心からのお願いに対して、地元も快くこれに応じ云々。
みたいな事が書いてありますが、

ダムの建設には皆大反対だった
根負けの感じで建設が決まった
家が水没する時のせつない気持ちは今でも忘れられない
続日南町史

といったような町史の聞取り内容とはずいぶん温度差がありますね。
木下町長としても苦しい立場だったのでしょう。

YouTube

あと、菅沢ダム建設記録映画というのが残っているようで日南町観光協会さんがYouTubeにアップしておられます。
とても貴重な映像だと思います。
リンクしておきますのでまぁ見てごしないや。

最後に県企業局のデータ(PDF)と現地の緒元碑などから引用させていただき、次行きましょう。

日野川第一発電所 菅沢ダム
2018-10-01
名称 菅沢ダム
高さ 73.5m
頂長 211.5m
堰堤容積 204,000㎥
貯水総量 19,800,000㎥
湖沼名 菅沢貯水池
竣工式 昭和43年5月27日
種類 直線型コンクリート重力式
利用方法 治水、農業用水、工業用水、発電
起業者 建設省中国地方建設局
施工者 清水建設株式会社
酒井建設工業株式会社
藤原組
星野土木株式会社

ぽんきちくん 総貯水量19,800,000㎥っていうとですね…ピコピコ
出雲ドーム40個ぶんぐらいです。
(´꒳`*)どやさ!

日野川第一発電所 菅沢ダム
2018-10-01
日野川第一発電所 菅沢ダム
2018-10-01
日野川第一発電所 菅沢ダム
2021-05-03
日野川第一発電所 菅沢ダム
2021-05-03
日野川第一発電所 菅沢ダム
2021-05-03
日野川第一発電所 菅沢ダム
2021-04-20

日野川第一発電所

それでは今回の目的地、日野川第一発電所です。
繰り返しになりますが、治水が主な目的である菅沢ダムのいち施設として昭和43年に完成しました。
菅沢ダム建設記録映画では上菅発電所と呼ばれていましたね。

いまここ。

日野川第一発電所

令和6年2月現在、絶賛設備更新中ですので、どうせスペックは変更されることになるのでしょうが、いちおう従来の緒元とその他をダム同様県企業局のデータ(PDF)から引用します。

日野川第一発電所
更新後新建屋
/2024-08-13
最大有効落差 127.00m
最大使用水量 4.00㎥/秒
最大出力 4,300kW
常時出力 300kW
発電開始 昭和43年5月9日
導水路延長 5,675.4m
水車型式 立軸単輪単流渦巻フランシス
水車製造者 東京芝浦電気株式会社

そしていちおう設備更新中の様子と、二度と見ることの出来ない旧設備も掲載しておきます。
景観に配慮した緑の水圧鉄管を懐かしく思い出す日もそのうち来るのでしょうね…

設備更新中の日野川第一発電所
設備更新中
/2023-09-23
設備更新中の日野川第一発電所
設備更新中
/2023-04-28
日野川第一発電所の旧建屋
旧建屋
/2018-07-22
日野川第一発電所の旧建屋
旧建屋
/2018-07-22
日野川第一発電所の旧建屋
旧建屋
/2018-07-22
日野川第一発電所の旧建屋
旧水圧鉄管
/2018-07-22

設備更新と今後の運営

それでは座学やります。
昭和43年の発電開始から50年以上にわたって県が運営してきた日野川第一発電所も、日本中に山ほどある水力発電施設同様そろそろ大掛かりなメンテナンスが必要な時期にさしかかっていました。
そこで鳥取県が今回採用したのがコンセッション方式のPFIというやつです。
PFI(Private Finance Initiative)とは、公共事業を実施するうえで、民間企業が発注者である地方自治体と提携し、建設、運営、管理などの業務を行いながら、一定期間にわたって事業の収益を得る手法のことです。
なかでもコンセッション方式では、従来のPFIと違って施設の所有権を移転せず管理運営などを行います。

ぽんきちくん 委託ってひとこと言えばそれで済むのに…

だよねw
たださすがに委託は大雑把すぎだぜ。
大きなお金が動くし、パラメータ次第で参入や運営のしやすさが変わってくるんだろう。
たぶん。
で、コンセッションというのは具体的に運営権を売却します。
このため事業を行う民間企業はこの運営権というやつを抵当にして借金(資金調達)をすることが出来ます。

⇩⇩⇩ ここから推測 ⇩⇩⇩

それでなんでわざわざこんなややこしいルールを追加するのかというとですね。
FIT制度ってあるじゃないですか。
FIT制度
再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど)で発電した電力を、国が定めた固定価格で電力会社が一定期間買い取ることを義務付ける制度。
日本では2012年に導入され、再生可能エネルギーの普及促進と電力市場の活性化を目指している。
発電事業者にとっては収益が安定するメリットがあるが、電気料金に反映されるため当然消費者の負担は増える。

・どう考えても破綻する未来しかない火力
・人類には早すぎた原子力

これらに代わって、日本政府…ていうか人類は何としてでも再生可能エネルギーの構成比を増やす必要があるわけです。
しかも爆発的に。
そんななか、FIT制度のおかげで再生可能エネルギーにうま味が発生し、新規事業や既存事業の設備更新などが急速に進みます。
しかし、そんな乾坤一擲の施策にも盲点がありました。
それは…

本来営利目的を有していない事業主
すなわち自治体が発電を行っている場合、餌(インセンティブ)の効果がない


という点です。
そこで、営利企業が参入しやすくするルールを追加することで、再生可能エネルギーの普及も進むし老朽化した設備の更新も進むというわけです。
まぁどちらにしても設備の老朽化は問題ですので、FITが絡もうが絡むまいが様々な事業で今後利用されるかもしれませんね、このコンセッション方式のPFIってやつは。
特にこの超低金利状態が続く昨今に於いて資金調達の後押しがあるとい

ぽんきちくん でもアベノミクスってもう終わっちゃいまし(モガモガッ)

しー!

⇧⇧⇧ 推測ここまで ⇧⇧⇧

詳しい事は国交省の資料(PDF)に書いてあります。
そういえばJA鳥取西部が所有する小水力発電所の設備更新、管理、運営も似たような感じで京葉ガスに委託してますね。
あれは官民ではなく民民ですし、運営権の売却までやってるかどうかはわかりません。
当然PFIとかではなく、確か協業って表現をしていました。

M&C鳥取水力発電株式会社

次、めでたく事業者として選ばれたM&C鳥取水力発電株式会社について。
鳥取県営の発電所が、えーとたしか8つぐらいあるなかで
舂米発電所
小鹿第一発電所
小鹿第二発電所
日野川第一発電所

以上4発電所の管理運営権を売却する民間企業を選定するため、平成31年に鳥取県は募集を開始。
それに対して50社の応募があり最終的に絞り込まれたのが以下の4社でした。

三峰川(みぶがわ)電力株式会社
本社:東京
丸紅の100%子会社
9道県に38箇所の水力、太陽光の発電設備を持つ
M&Cの社長、現地所長、電気主任技術者等を派遣し、再整備、運営の中心業務全般を担当

中部電力株式会社
本社:愛知県
東電、関電に次ぐ業界3位の大手電力
ダム管理主任技術者を派遣し、ダム管理を中心とする運営業務を担当

株式会社チュウブ
本社:鳥取県琴浦町
芝グラウンド整備をはじめとする緑化事業、公園等施設管理を手がける会社
運営維持業務の要員を派遣するほか、再整備業務の一次下請けを担当

美保テクノス株式会社
本社:鳥取県米子市
県内最大手の建設会社
チュウブと同じく運営維持業務の要員派遣、再整備業務の一次下請けを担当

令和2年5月、三峰川電力を代表として上記4社が特別目的会社M&C鳥取水力発電株式会社を設立。
それにしてもまさか鳥取県に住んでいて、中部電力のお世話になる時代が来ようとは夢にも思いませんでした。

ぽんきちくん えっ?!
もしかして事業者選定ってガチンコだったんで(モガモガッ)

失礼なこと言うんじゃないよ!
長い時間と協議を重ねてブラッシュアップしているんだ。
あとでこれ(PDF)を読んでおきなさい。
えー、それで現地の工事工程表によると令和6年12月から運転を開始する予定のようです。
また常時出力が300kWでこれまで運転してきましたので、旭発電所や川平発電所のように減量して小水力発電にクラスチェンジするのかと思いきや、調べてみるとどうやら
最大出力
1,000kW以上
5,000kW未満

の枠でFIT制度の適用を狙っているようです。
適用条件というのがこれですな。

専ら発電の用に供し、発電設備と一体不可分な設備の大宗を占める部分を更新した場合、発電設備を実質的に全更新したものと見なせ、新設設備と同じ調達価格が適用される。

固定価格買取制度における既設の水力発電設備の更新に係る認定の考え方について(PDF)より抜粋
資源エネルギー庁/H29.03.31

で、その為には発電所だけでなく、ダムや1,500㍍以上の導水路を更新する必要がありますので、なるほど昨今の菅沢ダム及び小原川導水路界隈がメンテナンス祭りだったわけです。

小原川導水路の改修工事
暗渠の改修/2022-03-06
小原川導水路の改修工事
暗渠の改修/2022-03-06
菅沢ダム更新 日南湖の浚渫工事
ダムの浚渫/2022-11-12

まとめ

日野川で水力発電を営む事業主のうち、
鳥取県
中国電力
JA鳥取西部

以上の3つが既に固定価格買取制度を見越した形で設備更新を行っています。
逆に言うと、この波に乗らなければ更新費用の償却にいったい何10年かかるのかわかったものではありません。

ぽんきちくん ほんと我先にってかんじですよね。
資源エネルギー庁の人かしこい。

所長 だよね。
北風と太陽とは正にこのこと。
話もまとまったところで今回はここまでといたします。
次回はローリングゲートで有名な新川平発電所でもやりましょうかな。

ーおわりー

┣・日野川水系の水力発電所
┃ ┃
┃ ┣・でかいやつ
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・黒坂発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・日野川第一発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・新川平発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・俣野川発電所と俣野川ダム発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┗・新幡郷発電所
┃ ┃
┃ ┣・小水力
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・小水力発電の歴史
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・畑発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・根雨発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・米沢発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・溝口発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・旭発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・川平発電所と川平第二発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・新石見小水力発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・新日野上小水力発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・若松川発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┣・賀祥発電所
┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┗・朝鍋ダム小水力発電設備
┃ ┃
┃ ┗・遺構
┃   ┃
┃   ┣・山上村農協小水力発電所
┃   ┃
┃   ┣・江尾発電所
┃   ┃
┃   ┗・津地発電所
ぽんきちくん

ご来場ありがとうございました。
ご意見やご感想、応援のメッセージなどいただけましたら、とても励みになります。
どうぞよろしくお願いします!