日野川水系の小水力発電所
農協系小水力
米沢発電所は、鳥取県日野郡江府町にある小水力発電所です。
昭和32年、米沢農協により建設されました。
また令和2年より設備更新を開始し、翌3年3月17日に落成。
現在は京葉ガスエナジーとJA鳥取西部の協働によって運営されています。
前項までの発電所と違い、こちら米沢発電所が設備更新される以前の写真を私は所有していません。
しかし、ここの見どころは何といっても2つの支流からなる複雑な取水経路。
そのへんはバッチリ取材してありますので以下詳しくご説明します。
それじゃ始めようじゃないか、ぽんきちくん!
もくじ
所在地
何はともあれ江尾の町からスタートします。
国道482号線に入り、美宝堂の前を通って貝田方面…
あー、分かりにくいな。
そうだ💡
貝田砂防堰堤のすぐ近(ゴンッ!)
わかるか!
余計迷うわ。
ポイッ⌒🔨
上水槽&除塵機
それでは皆さんお待ちかね!
導水路探索のコーナーです。
(0゚・∀・)ツヤツヤ
事前情報等見つかりませんでしたので、発電所を出発点にして勘を頼りに遡っていこうと思います。
船谷川の流れる峡谷を跨いで貝田と宮市をつなぐ宮市大橋まで行けば、そこがいきなり目標の標高です。
発電所の方に目を向けると、すぐ目の前に上水槽と除塵機がありますが…
当たり前ですね。
無理して近づく理由も法的根拠もありません。
そう言えばあのビニールハウスは新石見小水力発電所の上水槽にもありました。
最近の小水力発電施設は建屋もそうですがいろいろとモジュール化されているんだろうなぁ、などと遠目に考えつつ次行ってみましょう。
船谷川導水路隧道(仮)出口
いまここ。
上流方面に視線を転じてみると、山腹水路がこちらも蓋渠になって伸びています。
ある程度草は刈ってあるようですが、それでも草むらに突っ込むのイヤだなぁ。
…
…
そうだ。
こういう時こそタヌ(ゴンッ!)
嫌だっつーの!
ポイッ⌒🔨
結局山道は100㍍も無く、突き当りには隧道の出口がありました。
(0゚・∀・)テカテカ✨
当然名前などわかりませんし、もともと無いのかもしれません。
敢えて呼ぶとすれば船谷川導水路隧道ってところでしょうか。
それでは地図で凡その目星をつけてから、丘の反対側へ向かいます。
船谷川導水路隧道(仮)入口
いまここ。
あったあった!
時系列的には次に述べる調整池が先に見つかります。
なぁんだ、これだけ?
などと思ったそこのキミ、危ないので近寄ったら絶対にダメだぜ?
落ちようものなら真っ黒な穴に吸い込まれて、おおよそ1kmの地底旅行へご招待なのだから。
(;゚д゚)ゴクリ…
隧道前調整池
いまここ。
デカい…そして長い!
船谷川と美用谷川から取り込んだ水がここに合流。
余程水量が安定しないからなのか、大袈裟な程に長い越流堤が印象的で、除塵機の向こう側へと大量の水がギャボギャボと吸い込まれて行きます。
隧道前で流量をサージすることを目的としながら沈砂池も兼ねている付帯施設だとは思うのですが、はっきりした情報が開示されているわけでも無いので、いちおう調整池としておきました。
ここで2方向からの水路が合流しています。
さて、どっちから行こうかな。
美用谷川取水口
いまここ。船谷川取水口
いまここ。
⇧の水路橋からそう離れていない場所に堰があり、ここで取水しています。
ここから上水槽までの水路延長が1kmちょいで1,234m、有効落差52.3mな訳だが…
どうなの?
ぽんきちくん。
優秀だと思います。
ちなみに水路式の発電所として旭発電所を例にあげてみると、水路延長が約2kmで有効落差24.4m。
取水量とか水車の効率とかいろいろ違うんで同列で語ってもしょうがないんだけど…
効率はすごくいいんじゃないですか。
沿革と旧設備の緒元
米沢発電所について知ることの出来る手元の資料としては、碑文の写しと江府町史があります。
まずは碑文から。
着工 | : | 昭和31年4月1日 |
竣工 | : | 昭和32年1月18日 |
総工費 | : | 金弐千壱百万円也 |
導水路延長 | : | 1,234㍍ |
余水路 | : | ○2㍍ |
放水路 | : | 52㍍ |
水圧鉄管 | : | 62㍍ |
有効落差 | : | 52㍍30 |
出力 | : | 135粁ワツト |
機械設備 | : | 広島市 イームル工業株式会社 |
工事施工者 | : | 米子市 新栄建設株式会社 |
工事監督 | : | 江府町 安藤善平 |
粁=キロメートルと読みます。
細かい事を言えば適切では無いのでしょうが、キロワットと読ませたいんでしょうね。
次に江府町史から一部抜粋します。
米沢農協と神奈川農協は、農村電化の普及と組合員の福祉の増進を図るため、それぞれ次のような発電所を建設している。
神奈川農協発電所の場合、高谷地内の俣野川にあり、(33年3月)総工費2,300万円を要したという。
米沢農協発電所は、船谷地内に、総工費2,092万円で建設(32年4月)した。
巻末年表
昭和32年4月:米沢農協小水力発電所完工。(135キロワットアワー)
俣野川ダムの建設によって消失した神奈川農協発電所についての記述が目を引きますが、話が逸れますので今回は触れません。
本件について江府町史からの収穫は、なんといっても設備更新前の名称米沢農協小水力発電所です。
ま、例によって表記ゆれなどあるのでしょうが…
導水路延長と有効落差については既に述べました。
残念ながらこちらには、事業規模的なものを推測し得る材料が
最大出力:135kW
総工費 :2,092万円
しか見つけることができません。
竣工時の売電料は昭和33年とかけ離れているとは思えませんので3円10銭程度であったと考えるのが妥当。
出力も旧畑小水力発電所と旧根雨小水力発電所の間ぐらいです。
計算するまでも無く前述2ヶ所の発電所を参考にして…、
現代の感覚で2千万~4千万円ぐらいの年間売り上げを見込むことが出来る発電施設であったのでしょう。
設備更新と新しい緒元
冒頭で述べた通り2020年より設備更新を開始し、翌21年3月17日に落成。
現在のような姿になっています。
施工は株式会社コーセン。
コーセンっていうとアレだ、江尾は美宝堂の隣らへんに社屋を構える土建屋さんですね。
以下、更新後新建屋(立禁⛔)看板下のプレートを望遠にて。
区分 | : | 小水力発電所 |
名称 | : | 米沢発電所 |
発電出力 | : | 160kW |
発電事業者 | : | 京葉ガスエナジーソリューション株式会社 代表取締役社長 |
運転開始年月日 | : | 2020年12月10日 |
次に日本農業新聞の記事をJAの広報ページ(2022.04.25)より引用します。
式にはJAや同社の役職員、地元建設会社など関係者らが出席し、JAの谷本晴美組合長らが玉串をささげ、安全稼働などを祈願した。
同発電所は1958年に竣工し、地域の生活向上や農業の近代化などに貢献してきた。今年1月5日に更新が完了して売電をスタートし、年間120万キロワットの発電を目指す。
谷本組合長は「水力発電は地産地消のエネルギーとして持続可能な開発目標(SDGs)の取り組みにもつながる。
発電所を設置した先人の思いを引き継ぎ、地域や農業、暮らしを守る」と話した。
JAは昨年12月までに上中山(大山町)、米沢(江府町)、溝口(伯耆町)の3小水力発電所も更新した。
ここは管理運営が京葉ガスに移管してから訪れましたので懐古的な写真は一枚もありません。
しかしよくよく考えてみると、農協系小水力の取水経路というのは、廃止されたものや大ダムに吞み込まれたものを除き、一貫して変化というものがありません。
つまり水利システム自体が生きた化石として、今我々の目の前に在るわけです。
これは中国電力と比べて、大規模な変更を行う資金的余裕がないというのももしかするとあるのかもしれませんが、それよりも何よりも最初に決めた場所以上に効率の良い候補地が存在しない、という理由が大きいのではないでしょうか。
結局何が言いたいかというと、イームル工業の織田史郎が如何に天才であったかとい
話が長い。