日野川水系の小水力発電所
農協系小水力
畑発電所は、鳥取県日野郡日野町中菅にある小水力発電所です。
昭和33年、黒坂農協によって建設されました。
現在はJA鳥取西部を事業主体として、京葉ガスエナジーが管理運営を行っています。
少し前までは戦後間もないレトロ建築の趣を楽しむことが出来た(個人的)名物スポットも、令和4年3月に竣工した更新工事によって生まれ変わりました。
近隣にある農協系小水力と良く似た外観です。
あと細かい事ですが、建屋の看板にはシレッと「畑発電所」と表記されています。
もしかしてアレですかね。
小水力って友達に噂とかされると恥ずかしいし…(藤崎詩織)
ってヤツでしょうか?
更新しても最大出力が165kWだという事はわかっていますので、引き続き畑
ほんとに細かいですね。
どーでもいいじゃないですか、畑発電所でも何でも。
ちなみに国土交通省の発電データベースでは黒坂小水力発電所になってますから。
ムキー!!
もくじ
所在地
日野町中菅畑地内にあり小河内、上菅、花口の三方からアクセスすることが出来ます。
中でも小河内からのアクセスが(比較的)楽な事もあって、私はこの道ばかり利用しています。
…しかし、アレですな。
見るべきものが多すぎてまったく道行きがはかどりません。
山間の水耕を支える名前もわからんような小堰堤であるとか、いい感じの橋、近江川と水路橋が交差してい(ドンッ)
とっとと行け!
取水堰堤と導水路
場所の分かっている今となっては、なんという事の無い畑発電所の取水堰堤ですが…
少しだけ苦労話を挟んでも良かですか?
まず水力発電所について語るとき、その水が何処から来ているかがものすご~く気になる訳です。
慣れてくると(慣れてなくとも)、地形図を見るとか、まぁ事前に出来る事はたくさんあるのですが…
水力探索を開始して間も無かった頃の私は、あろうことか現地に行けばなんとかなるとかなんとか思っていました。
⇨えーっと💦
そして近江川上流のだいたい同じような高さの場所に取水口がある筈だ。
Q.E.D. (証明終わり)
フンッ、楽勝じゃないか。
…結果的にはもの凄く大変でしたので、こうしてわざわざ告白しています。
上述したような得体のしれない取水堰堤が至る所にあり、その度に立ち止まっては虱潰しに確認する必要があったからです。
そんな方法でも結局たどり着いちゃうとか、なんかもう一周回って天才ですよね、ケタケタw
ただ、まるで今は違うみたいな言い方ですけど、取り敢えず行ってから考えようってスタイルは変わってませんから直してください。
無視。
ちなみに導水路がバッチリ写っている地理院地図がこちら。
勿論Googleマップにも写っています。
ここで今回ひとつめの格言。
そしてこちらが山腹水路の様子。
発電所の設備更新に伴い、余水吐きも新調されています。
途中水路隧道があり、是非ともこの目で見たいところではありますが、流石にこれ以上はやめておくことにして引き返しました。
沿革と旧緒元
まず、所在地である日野町の地誌「日野町誌」から一部抜粋します。
…中略
農林中金の融資と自己資本によって、日野農協は金持、黒坂農協は畑地内、それぞれ建設したもので、事業内容は次のとおりである。
発電開始日 | : | 昭和33年12月25日 |
発電常時出力 | : | 142kw 恐らく最大出力 |
売電料金 | : | 3円10銭 |
売電料 | : | 3,678,593円 昭和34年度 |
因みに平成30年の消費者物価指数は昭和33年の凡そ5.84倍ですので、上記の金額を消費者物価基準で現代の感覚に換算すると、
売電料金 :18円/kWh
年度売電料:21,500,742円
となります。
また、経産省発表による200kW未満の中小電力発電、令和元年の売電価格は34円+税。
つまり売電による所得税を無視してザクっと計算すると約11倍ですので、売電価格基準だと、
年度売電料:40,345,858円
推定値に幅があるので何とも言えませんが、今の感覚で大雑把に年間3千万円(±10M)程度の収入が見込まれる発電施設として運用されていたと考える事ができます。
ついでにもう一つ参考まで。
近隣にある黒坂発電所の最大出力は(旧)畑小水力発電所の142kWに比べて約100倍の15,000kW。
俣野川発電所に至っては8,450倍です。
まぁこれに関して言えば比べる意味などありませんがw
発電所にはそれぞれ得手不得手っていうのがありますからね。
次に、発電所敷地内(⛔立禁)にある碑文を、望遠撮影にてそのまま引用します。
発電所竣工記念碑
昭和32年4月役員会の決議に依り小水力発電事業を企画し次で同年5月通常総会に提案決議決定の上之斯道の権威者廣島市イームル工業社長織田史郎氏に出張を願い現地調査により有望なりとの結果を得、縣砂防課有田技師に依り實地測量を施行、更に具体的計画を樹立し同年8月全役員一丸となりて関係各方面に陳情運動を展開せり、この間縣廳、中電、通産局等関係上級機関に於ても非常なる支援を受けたるもこの事業の性格上その推進途上に於て頗る難関にも遭遇シ挫折の止むなきに至るやの場合も屢々有りたるも熱誠努力はよく之を克服シて、昭和33年4月各機関より建設の認可措令を受くるに至り5月14日工事施行の入札を行いたる結果鳥取市株式会社藤原組に落札シ諸契約を結び5月23日劃期的大事業の起工式を擧行シ愈々本格的工事に着手せり爾来地元部落並に組合貟の協力と役職貟一致協力と伴せ施工者株式会社藤原組の努力により12月19日全工程を完了シ同25日関係各廳の竣工検査を受けて茲にこの歴史的大事業の竣工をみるに至りたるにつき之を記念シその概要を誌す黒坂町農業協同組合
組合長理事 | 前田 英 |
専務理事 | 紫田鉄雄 |
理事 | 生田慶治 |
仝 | 頭本 絜 |
仝 | 吉原儀市 |
仝 | 生田 栄 |
仝 | 秋葉定寿 |
仝 | 才原房治 |
仝 | 後藤信市 |
仝 | 青戸恒美 |
仝 | 小谷徳治 |
仝 | 金田福治 |
仝 | 山形萬歳 |
監事 | 池屋益治 |
仝 | 谷口收一 |
仝 | 岡田寿治 |
工事担當係 | 中沢 晃 |
設計監督 縣砂防課技師 |
有田善夫 |
現場監督 | 前田虎市 |
仝 | 矢田貝喜八 |
工事施工者 | 鳥取市 KK藤原組 |
機会納入者 | 廣島市 イームル工業KK |
S32/04/?? | : | 企画 |
同年/05/?? | : | 総会にて決定 |
~ | : | イームル工業社長織田史郎氏の検分 有望との回答 県砂防課有田技師による実地測量 |
同年/08/?? | : | 陳情開始 |
S33/04/?? | : | 認可 |
同年/05/14 | : | 工事の入札 |
⇨ | : | 落札藤原組 |
同年/05/23 | : | 起工式 |
同年/12/19 | : | 工程完了 |
同年/12/25 | : | 竣工、発電開始 |
近年の動きと新しい緒元
発注者 | : | 鳥取県西部農業協同組合 京葉ガスエナジーソリューション㈱ |
施工主 | : | ㈱T・M・S |
同3月15日に竣工式が開催されました。
スペックについては、山陰中央新報2022年3月11日朝刊より
発電機 | : | 横軸フランシス |
最大出力 | : | 165kW |
売電料金 | : | 34円(再エネ特措法により) |
年間発電量 | : | 120万kWh |
年間売電量 | : | 40,800,000円 |
で、こちらが工事期間中、7月の様子。
よーく見てみると、水圧管路の向かって右隣にモノレールが敷いてありますね。
果樹園などで常設してあるのを見るのも楽しいですが、こういった「今だけ!」の工事用モノレールっていうのもいいですねホクホク。
そして最後に、こちらが現在の様子と(旧)建屋となります。
特に、どれだけレタッチしようとも残念なこれら3枚が、手持ちで全ての写真となってしまいました。
それでは2つ目の格言。
いつまでもあると思うなレトロ建築
合掌。
次回は根雨発電所についてご説明します。