山上村農協小水力発電所

鳥取県
日野川水系の水力発電所
農協系小水力
最終更新:

所長 日南町尾郷にはかつて農協系の水力発電所がありました。
昭和26年に建設された山上村農協小水力発電所です。
今はありません。

1974~78年の航空写真では既に建屋が残っていませんので、それ以前、恐らく昭和30年台末ごろには既に廃止されていたのではないでしょうか。
昭和30年代と言えば高度経済成長と人件費の高騰によって小水力発電が割に合わなくなり始めた頃です。
根拠はそれだけしかありませんので、あまり掘り下げずにとっとと進めましょう。
建屋は無いといってもそこは水力施設。
土木構造物の遺構はバッチリ残っていますので今回はそれらの紹介がメインです。
特に水路橋は目を見張る美しさ!
それじゃ順番に見ていこうじゃないか、ぽんきちくん。

ぽんきちくん だからやですってば。

もくじ

日野川水系の水力発電所
黒坂発電所
日野川第一発電所
新川平発電所
俣野川発電所と俣野川ダム発電所
新幡郷発電所
日野川水系の小水力・・・発電所
小水力発電の歴史
畑発電所
根雨発電所
米沢発電所
溝口発電所
旭発電所
川平発電所と川平第二発電所
新石見小水力発電所
新日野上小水力発電所
若松川発電所
賀祥発電所
朝鍋ダム小水力発電設備
遺構
山上村農協小水力発電所 ⇦ いまここ
取水堰 ________(
水路橋跡 _______(
導水路跡 _______(
発電所跡地 ______(
緒元についての考察 __(
津地発電所
山上村農協小水力発電所

『続日南町史 地域編(2020.06)』を出典として使用させていただきました。

取水堰

尾郷の集落南端あたり、小原川に古い堰があります。
竣工から70年以上経過しているだけあって、もはや自然石のような滑らかさ。
近くまで降りてみましたが、取水口もしくは導水路らしきものは見当たりませんでしたので、道路の拡張に伴い潰してしまったのでしょう。

山上村農協小水力発電所の取水堰
2024-02-12
山上村農協小水力発電所の取水堰
2024-02-12
山上村農協小水力発電所の取水堰
2024-02-12

ちなみに、堰の左岸(道路)側が補修されていますね。
実はこれがとても異様な事だという話をこれからしようと思います。

冒頭で、1974~78年の航空写真では既に発電所が無かったと述べましたが、その頃この場所は幅員の狭い1車線でした。
という事は、伯耆伯南線の幅員が拡張され、法面が出来たのは発電所の廃止以降であることになります。
よくよく見てみると補修の跡は川岸の法尻と似たような質感ですので同時期。
また、そうでなくともコンクリートの肌理が細かく、堰の竣工よりは随分後に施工されたと考えるのが妥当。
つまり補修は発電所が廃止された後に行われた可能性が高いのです。
おわかりでしょうか?
朽ちるにまかせておけば只の遺構で済んでいたものを、なまじ補修なぞしてしまった事により無用の長物的超芸術、すなわちトマソンになってしまったのであ

ぽんきちくん どうでもいいです、そんな話。

水路橋跡

山上村農協小水力発電所の廃水路橋
2023-01-21

さてここが今回のクライマックスだぜ!
( ✧Д✧) カッ!!

私がこの土木構造物の存在を知ったのが2021年9月。
地元ですので当然それまでも見る機会はあったのでしょうが、記憶にありません。
…まぁ、あまりこういうのに興味が無かったんでしょうな。
で、気付いたら気付いたで気にはなりながらもその正体がわからない。
遺構へ直通の林道は全面通行止め。
ここで手詰まりとなります。
仮に地形図上で等高線を辿って前述の取水堰に気付けたとしても、水の終着点である肝心の事業所が既に無くなっている訳ですから同じく手詰まりになっていたことでしょう。

やむを得ず塩漬けにすること2年。
なんのことはない、町史に書いてありました。
いいかいみんな?
俺たちが疑問に思った事なんて、たいてい誰かが既に調べてるんだ。
郷土史だ、郷土史を読もう!

はぁ…それにしても美しい。
鳥取県西部に残る廃土木の中で間違いなく断トツの美しさでしょう。

山上村農協小水力発電所の廃水路橋
2023-01-21
山上村農協小水力発電所の廃水路橋
2023-01-21
山上村農協小水力発電所の廃水路橋
2023-01-21

導水路跡

水路橋が残っている方(右岸)の林道は全面通行止めであると先ほど述べました。
くっくっく…だがな、左ががら空きだぜ!

というわけで、山腹水路が残ってないか確認してみようと思います。
水路橋の高さを念頭に置きながらモルタル吹付の法面を眺めてみると、それらしい段差が見えるには見えます。
ただこうやって書いたものとして発表するからにはもう少し根拠が欲しい。


…登ろう。
危ないからみんなはダメだぜ?
注:おまえもな

結果、水路跡であることがわかりました。
他の用途で使われていたと考える理由も特にありませんので、

山上村農協小水力発電所の導水路跡である

と結論付ます。
あー怖かった。

山上村農協小水力発電所の導水路後
2024-04-07
山上村農協小水力発電所の導水路後
2024-04-07
山上村農協小水力発電所の導水路後
2024-04-07
おまけ.ナゾの構造物

ちなみに途中怪しい構造物がありましてですね。
私は当初これが水路橋前の余水吐きなんじゃないかと考えていたんですな。

今回斜面によじ登ったのも、実はこやつの正体を明らかにする意図が半分ぐらいあったのですが、残念ながらハズレ。
普通の谷止工でした。
時系列的には水路の後。
上の写真2枚目でわかるとおり、水路跡をぶった切って施工してあります。
形といい質感といい、怪しいと思ったんだけどなぁ。
それにしても怖かった。

山上村農協小水力発電所の廃水路
2024-04-07
山上村農協小水力発電所の廃水路
2024-04-07
山上村農協小水力発電所の廃水路
2024-04-07

発電所跡地

山上村農協小水力発電所の廃水路橋
2023-01-21

はい、発電所跡地にやって来ました。
建物および水圧鉄管は既にありません。
くっくっく…だがな。
何も無いわけじゃないぜ?

どこだかで書いたような気がしますが、取水口から放水口までが水力探索。
そう、放水路が残っているかもしれない。
道の下に通していた穴をわざわざ跡形もなく埋め戻すよりは再利用した方が手っ取り早そうですからな。
というわけでここだ!ドンッ。

山上村農協小水力発電所の放水路跡
2023-01-21
山上村農協小水力発電所の放水路跡
2023-01-21
山上村農協小水力発電所の放水路跡
2023-01-21

放水路の位置からして、発電所そのものは丁度ユンボの辺りにあったんじゃないですかね。
航空写真でもここら辺になんか見えますし。
更に山の中腹ぐらいまで登れば導水路の隧道跡も見つかるのでしょう。

緒元についての考察

最後にできる限りの考察をしてみたいと思います。
資料などありませんのであまり期待しないでいただきたい。
下敷きにできそうな条件としては、
・30m程度の有効落差を得ることができた
・取水量は0.3㎥/秒程度であった

これらを補足しながら説明します。

有効落差については、取水位および水路の高さがわかっているので地形図の等高線を数えれば求まります。
次に小原川からの取水量について。
山上村農協小水力発電所の取水堰から僅か1kmほど上流に、菅沢ダムの付帯施設である小原川集水地があります。
菅沢ダムができたのが昭和43年。
其々が活躍する時代は競合していませんので、小原川の流量を維持しながらという条件で同程度の取水ができていたと仮定します。
で、小原川集水地での最大取水量が0.275㎥/秒ですので、概ね0.3㎥/秒としました。
このことから、
最大出力は80kWぐらいであった
と推定することができます。
そこら辺の水車選定表を見ればだいたい当たりをつけることが出来ますからね。
今回は三井三池製作所太陽ガスのページを参考にさせていただきました。
水車、その他発電装置がどのようなものであったかについてはもはや知る由もありませんので、今回はこの辺りまでといたします。

それではさようなら。

ーおわりー

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ぽんきちくん

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